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5.5 進化的リサイクルシステム

5.5.1 ハイパーサイクルの応用
マンフレート・アイゲンとピーター・シャスターは、1977年から1978年にかけてハイパーサイクルと呼ぶ化学進化に関する興味深いダイナミクスを提案した。この中で彼らは、閉じたサイクルが示す自己触媒反応が、明快な階層構造を持つことを明らかにした。単位となる自己触媒反応が一つのサイクルとして働き、それらが連結されたサイクル全体が一つの自己触媒反応として機能する。自己触媒反応は、反応の生産物が、それを生み出した一連の反応を制御する性質を持っている。
この自己触媒反応は、ハイパーサイクルでは特に重要な役割を果たす。それは、ゆらぎを自己強化するという性質を持つ。これによりシステムは不安定となり、結局ある閾値を超えて新構造を形成する。ハイパーサイクルで重要なのは、マクロ的な平均値ではなく、小さな規模で始まったゆらぎが内部強化を強め、創造的個の原則が集団の原則に打克つダイナミクスにある。
ハイパーサイクルのダイナミクスは、進化のプロセスと対比される(ヤンツ,1980)。もとのシステムは、サブシステムを連結させて、つねにゆらぎを消そうとすることから、旧構造はかなり長いあいだ生き残る。しかし、新構造が出現するフェーズでは、非平衡熱力学の法則が示すエントロピー最大生産の原理が作用し、新構造形成のために新たにエネルギーが投入される。このように、グローバルな構造が継続されつつも、自己を参照しながら構造を絶えず変化させる性質は、自己創出性(オートポイエシス)と呼ばれ、生命の進化にも同様なメカニズムが作用してきたと考えられている(図5−16)。

 

5.5.2 エネルギーフローと情報
自己組織化するシステムがエネルギーを消費しつつ、新しい構造を形成する過程には、情報が関与する。たとえば、非平衡状態が増すに従って新しい構造が出現するが、その模様は、各分岐点において自由な決定がなされる決定樹木に似ている。興味深いことに構造形成の道筋は記憶されており、退却を余儀なくされれば、そこまで進んできた自己創出構造の流れをさかのぼり、元の状態に戻ることができる。すなわちシステムは、その発展の途上に現われたすべての初期条件を「憶えている」のである(図5−17)。
構造の形成がどういったレベルにまで達するかは予測できぬものの、それが部分的にはシステムと環境との相互作用で決まることは間違いない。したがって、進化が到達した各レベルは、システムの真の意味での経験を表わしている。また、ゆらぎに対する安定性に関して、システムは情報(知識)を生み出したとも言える。この情報を記憶してシステムは独自の安定性を維持する特性を持っているのである。

 

 

 

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